2023年夏合宿 in八王子

茶話ブログ

2023年度の夏合宿を東京・八王子で行いました。
「茶話日和って何するサークル?」とよく聞かれます。
これを見てイメージを膨らませてもらえると嬉しいです!?

〇八王子のアジアーゲストハウス皎月山荘

東京の端にひっそりあるモンゴル、これが皎月山荘です。

東京の中のアジアを求め、今回は八王子の皎月山荘を訪れた。高尾山のほど近く、豊かな自然の中にひっそりと佇む日本家屋の中には、異文化が広がっている。

オーナーの韃靼晟大(だったんじょうた)さんは内モンゴル出身で、ゲストハウスの経営を通して日本人にモンゴル文化に親しんでもらうことを目指している。韃靼さんは伝統的な日本家屋を修繕しつつその中でモンゴル文化体験を提供しているが、海外からの観光客が訪れる時は茶道・香道の先生を呼び、日本文化の紹介も行っているという。自身のモンゴルのルーツを大切にしつつ日本文化にも敬意を払っているのだ。

ゲストハウスとして使われる日本家屋には韃靼さんの思いがこもっている。宿の名前「皎月山荘(こうげつさんそう)」の「皎月」は月がのぼる、という意味で、阿倍仲麻呂の「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出し月かも」から取っている。韃靼さんがゲストハウスの物件を探しているとき、ふと上を見て八王子の月がとてもきれいだったことからこの名前を思いついたという。遠く唐の地にいた阿倍仲麻呂が故郷を懐かしんで見上げた月と、故郷を離れた自身の見る月を重ねたのだ。

皎月山荘の中には至る所に韃靼さんが輸入・購入したモンゴルの置物や日本画が飾られている。また、昔ながらの日本家屋を改装しているため柱や壁が少なく、各部屋は障子だけで仕切られており、開放的な空間が広がっている。ゲストハウスではゲルの中での家族団欒のひとときのような和気藹々とした空間の提供を大切にしている。

〇モンゴルの伝統音楽

お世話になったのはアマルジャルガル・ドルギオンさん。モンゴル国出身。来日17年目。ホーミー歌手兼馬頭琴奏者。日本の航空専門高校を卒業。当初、卒業後は帰国するつもりだったがせっかくホーミーと馬頭琴を長年習ったからと音楽の道で生きていくことを決めた。韃靼さんとの出会いは数年前。

ドルギオンさんに、モンゴルの世界無形文化遺産・ホーミーと馬頭琴について教えてもらった。

1,ホーミー

ホーミーとは、基音と倍音を同時に出すことによって、低音と高音が重なって聞こえる独特の歌唱法だ。低い声でうなりながら口や舌の形を変えて音を出すが、笛のような高い音も出すため喉笛ともいう。ユネスコ世界無形文化遺産に登録されている。

ホーミーの由来は諸説あるが、モンゴルの首都ウランバートルから西へ約1500km離れたチャンドマニ村が発祥とされている。チャンドマニ村では、気候条件が揃うと村の近くの谷から低くうなるような音が聞こえてくる。これを表現しようとしたのがホーミーの由来だというのだ。

「モンゴル人は自然から聞こえてくる音をホーミーで表現しました。川を流れる水の音、谷を通る風の音など、山、谷、川、滝、森で聞こえてくる音は自然のホーミーとされています。結婚式や新年など特別な日にゲルで歌われてきましたが、近代に入ってからはステージでも歌われるようになりました。」

ホーミーの技法にはハリヒラー、シャハ―など、さまざまな種類がある。ハリヒラーの歌い方は、日本では僧侶が読経する時にしばしば用いる、低くうなるような声と似ている。シャハ―は高く、部屋中に響き渡るような大きい音を出す歌い方。

ホーミーの技法でよく歌われるのは「オルティンドー」だ。オルティンドーはモンゴル語で「長い歌」という意味で、息が切れるまで歌詞一言一句を長く歌う、日本で言う演歌のような歌。

「オペラ歌手に匹敵する体力声量などの能力がないと歌えません。肺活量も非常に重要ですね。実際にお腹が空いているときや疲れているときホーミーを歌うと、めまいがすることもあります。実際にステージで倒れてしまった人もいるとか。」

解説の後、ドルギオンさんが実際にホーミーを歌ってくれた。人の声とは思えない、まさに谷に響き渡る自然のうなりが聞こえてきた。声は部屋中に広がってその場にいる私たちを包んだ。故郷を偲びながらも異国の地で懸命に暮らしを営んでいる人たちを代弁しているかのように、厳かな雰囲気の中どこか悲しげな音を轟かせた。

2,馬頭琴

馬頭琴はモンゴルの民族楽器で、バイオリンのような形をした弦楽器だが楽器の先端に馬の頭の彫刻が施されている。音色はチェロに似ているが、日本の琴や琵琶のように音にかすかな揺らぎがあり、それが独特の味となっている。ホーミーと同様ユネスコ世界無形文化遺産に登録されている。

「昔は胴体を革で作っていましたが、湿度によって伸び縮みするので音が変わり、チューニングをしなおさねばいけないこともありました。1960年代ごろからヨーロッパをはじめとする国外との交流が盛んになったことでヴァイオリンなどが入ってくるようになりました。同時期にソ連から招いた著名なバイオリン製作者によって、木製の馬頭琴が作られるようになりました。これは素晴らしい発明でした。環境の変化に強い木製の馬頭琴ができたことで、海外に持って行ったり、草原ではなくコンサートホールなどでも演奏しやすくなったりしたんです。」

胴体は従来の馬頭琴と近い音が出るシラカバを使う。バイオリンと同じ種類の木を使う場合もあるが、その場合少し音が変わり、バイオリンのような音が出るのだという。胴体の弦は本来は馬の尾を使うが、最近はナイロン弦を使う場合も多い。

「馬の尾の方はより自然な音がします。耳をよくよく澄ませて聴くと違いが感じられますが、高いのでナイロンを使う場合も多いですね。弦は2本しか張られていないように見えますが、実は150本ほどの細い弦が集まっています。馬の尻尾はちょっと太いので120本程度を束ねるのが普通ですね。」

弓にはさまざまな種類があり、演奏する人が重さ、長さを自分に合うように決めて作ってもらう。バイオリンと同じく、馬の尻尾を使う。楽器本体と弓両方とも馬の尻尾を使う楽器は古今東西馬頭琴だけだとか。「生きている馬からもらった尻尾どうしで、細胞を細胞で『弾く』ことで生きている音がなるのです。」

馬頭琴は結婚式や、お客さんが来た時、断髪式など、特別な時に弾く。伝統的にモンゴルでは馬頭琴を弾きながら歌うオルティンド―で邪気が払われるという言い伝えがあるからだ。音楽の特徴からモンゴル人の騎馬民族・遊牧民族としてのアイデンティティが垣間見えた。

じっと聞き入ってしまう音色

見た目は単純だが、難易度は楽器の中でも相当難しい方だ。指の一番先の関節をまげて、横から弦を押して弾くので最初のうちは爪と指の境目あたりの皮が剥け、とても痛いのだとか。指で押さえて高い音を出したり、指で弦を振動させたり、指で直接弦を弾くなど弾き方もさまざま。弾き方が違うせいなのか、先生が奏でる曲は雰囲気だけでなく音色も少しずつ違うように聞こえた。時には人が歌っているように聞こえることも、管楽器のように澄んだ音に聞こえることもあった。馬頭琴を弾きながら歌うホーミーは小さなオーケストラのようだ。自由に姿を変える二つの音が交わって、大草原を自由奔放に駆け走る馬の姿を彷彿とさせた。

〇モンゴルを”喰らえ”-ゲストハウスの食事

「モンゴルの食事は『白』と『赤』からなっています」

モンゴルゲストハウスのオーナー、韃靼さんはきょとんとする一同を前に、にこやかにモンゴル料理について説明しはじめた。「『白』というのは乳製品中心で、春に子を産んだ家畜の乳が出る夏に食べる料理のことです。『赤』は肉中心で、厳しい寒さを乗り越えるための体力をつけるための食事です。」

しかしながら、9月末、まだ残暑の厳しい中、高尾の山奥に立つゲストハウスで振る舞われた食事は「白食」ーーではなく「赤食」だった。「本来は白食ですが日本では夏に体力が必要ですし、何より豪華でしょう」と笑う韃靼さん。モンゴルからの留学生と共に、料理の全てをゲストハウス内で手作りした。

サラダや煮込み大豆、韃靼さん特製の大根漬け、ニンニクの黒酢漬けなどの前菜の次に出てきたのは、18キロもある子羊の丸焼き。生々しく足の形や耳も分かる丸焼きは、野菜の出汁とスパイスに24時間以上漬け込み、皮がカリカリになるまで4時間焼いたものだ。食事を共にした馬頭琴奏者のドルギオンさんも「これは食べたことがない」と驚いていた。伝統的には羊肉は塩茹でするのが定番だが、今回は特別。モンゴルでは、どんな食事でも最初の一口は最年長者あるいは最も偉い人が切り、その分は神に捧げるという。今回はドルギオンさんが神に捧げる一口を切り取った。

どデカい羊の丸焼き。口コミで有名だとか。

羊の数を全国民で割ると一人5頭と言われるほど羊が多いモンゴル。馬(蒙古馬)、ヤギ、ラクダ、牛と共に「五畜」と呼ばれる。五畜は移動手段としてだけでなく、乳や肉・毛皮も余すことなく使うことのできる文字通りの「財産」だ。また、乾燥が厳しいモンゴル・ゴビ砂漠において蒙古馬だけが水の場所を当てられるため、「砂漠のエンジニア」と呼ばれることもあるとか。『スーホの白い馬』に登場するスーホも、馬頭琴の曲で多く歌われるのもそうした蒙古馬だ。

続いて登場したのは「羊の五宝ピリ辛煮込み」。「五宝」とは羊の五つの内臓、すなわち、肺、胃、心臓、腎臓をさす。野菜が育ちにくいモンゴルでは、草食の羊の内臓を全て食べるのは健康に良いと言われている。地域によって味付けが異なり、今回食べたのは少しとろみのある濃厚なスープだったが、モンゴル国西部出身のドルギオンさんの実家では塩味の透明なスープが主流だという。薄いナンのようなものを浸して食べた。

3番目は「故郷火鍋」。下に発酵した白菜を敷き、その上に豚、鳥、牛、豆腐などを入れて煮込んだスープだ。発酵した白菜のためかスープにはさわやかな酸味と旨味があり、辛いもの・脂っこいものをを食べた後にほっと一息つけるような料理であった。韃靼さんは「モンゴルでは昔鶏肉は高級品で、年に1、2度食べるごちそうでした。この料理も本来はお正月に食べる特別なものですが、日本に住むモンゴル人はコロナで長らくお正月にも故郷に帰れなかったので、懐かしいだろうと思って夏でも出すようにしています。母に電話して作り方を聞いて、さらに自分でおいしくなるように改良しました。皆『母の味』と言ってとても喜んでくれますよ。」と教えてくれた。

4番目は「羊頭肉スパイシー炒め」。その名の通り羊の脳みそがほぼそのままの形で分かるような炒め物で、ピーマンなどと一緒に彩りよく盛られていた。見た目のインパクトとは対照的に濃厚な旨味があり、白子を思わせる味であった。日本人の中には辛さに涙目になる者もいたが、続いて登場した「蒸し薬膳スープ」によって再び一息つくことができた。スープは冬瓜や人参がふんだんに使われた羊肉のスープで、この日食べた料理の中では最も優しい味だった。豪勢な料理の数々の合間にこうしたスープが挟まることで、再び食欲が回復し、脂っこいものや辛いものも食べられるようになるのだ。

シメとして登場したのが「粟のバターオイル炒め」。部屋中に漂う香ばしい香りに「もうお腹いっぱい」と漏らしていた茶話日和メンバーもつい箸が進み、あっという間に一皿平らげてしまった。ぷちぷちとした食感がクスクスに似ていたが、米や小麦よりも口の中に残らず、あっさりと食べることができた。

最後に一口大の「モンゴル肉まん」。モンゴル風の小籠包のような料理だ。味も見た目も似ているが、使われている肉は豚肉ではなく羊肉。羊の臭さがなく、食べやすい肉まんだった。

これでおしまいだろうと思っていると、「サービスです」と言いながら韃靼さんが白い液体を取り出した。「モンゴルの作り方で作ったヨーグルトですよ。たくさん食べた後はヨーグルトを飲むのが一番!消化を助けてくれます。トイレにかけこまないでね(笑)」市販のヨーグルトよりも酸味が強く、濃厚な味わいだった。

料理の詳しい説明はどれもモンゴル人の生活がいかに「五畜」と共にあるかを感じられる、非常に興味深いものばかりだった。全体にボリュームたっぷり、種類もたっぷりの豪華な食事だったが、不思議と翌日に胃もたれは起こさなかった。羊肉が中心だったからか、はたまた韃靼さん特製ヨーグルトのおかげか‥

実際に泊まる場合は、今回味わった「帝国プラン」だけでなく、「モンゴル遊牧民プラン」や「豪華しゃぶしゃぶプラン」もある。予約は電話かHPの予約フォームから。

日の光に照らされ、気持ちの良い朝を迎えた我々一同を待ち受けていたのは、昨晩同様、異国情緒漂う豪勢な朝ごはんだった。前日の夕食で出てきた羊の丸焼きをスパイスでアレンジしたもの、ミルクティー、チーズ、そしてそばをいただいた。

飲んだ次の日でも優しい味わい。大学生にはピッタリか?

一晩寝かせて味がしっかりと染み込んだ羊肉は、より一層美味しく感じられた。

ミルクティーは、我々が普段日本で飲むいわゆるミルクティーとは異なり、モンゴル独自のお茶だった。「遊牧民族は、朝家を出てから夜帰宅するまで何も食べられないこともあります。そのため塩分不足にならないよう、昨晩焼いた肉を食べ、塩でしっかりと味付けされたお茶を飲みます。」と韃靼さん。非常に飲みやすく、甘さは控えめでお茶の風味が際立った。このミルクティーの役割はそれだけではない。二日酔いでご飯をたくさん食べられない人も多いため、ミルクティーにつけて前日の羊肉などをほぐし食べやすいようにすることもあるのだ。

その他にも色・形・風味の異なる4種類のチーズを頂いた。モンゴルでは自然環境の特性上野菜はあまり摂れない。その代わり、馬乳などを発酵させて乳酸菌を摂取しているのだという。少し甘みの強いものから、酸味の強いものまで、家畜・遊牧を生活の根幹とするモンゴル文化の深さを感じられた瞬間だった。何といってもこれらのチーズは非常に固く、食べ応えがある。ミルクティーとの相性が抜群で、固いものを好むモンゴル人にとって欠かせない料理である。

同じ皿にはキビも盛り付けられていた。キビは煎って皮を剥ぐと中にはぷちぷちとした食感のものが入っている。固いチーズとも相性が良く、味だけではなく食感にも幅を持たせるモンゴル文化の繊細さに大いに興味を持った。

もうお腹いっぱい、と思った矢先、オーナーの韃靼さんが美味しそうなそばを出してくださった。日本でも馴染みのあるそばと聞いて我々は一瞬驚いたが、ネギ、豚肉、スパイスを用いたモンゴル料理独特の汁の香りに一同興味津々だった。モンゴルのそばには「韃靼そば」というものがあり、ルチンという成分が普通のそばの100倍以上含まれているため苦味が強いらしい。今回は普通のそばを頂いたが、オーナーである韃靼さんの作ったそばは実質韃靼そば!?という冗談も交えつつ、和やかな雰囲気に包まれた朝食だった。個人的にはそばがとてもあっさりとした味わいで、羊肉と交互に食べると本当に止まらないくらい美味しかった。

〇その他の活動

今回の夏合宿はゲストハウスだけでなく、八王子の観光や檜原村の地域おこしに携わる齊藤さんへのインタビューを行いました。
(齊藤さんのインタビューはコチラ)
我々茶話日和は長期休暇ごとに合宿を行っています。
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大場莞爾